日頃の労働行政でのご奮闘に敬意を表します。
現在、政府は失業者の増大によって枯渇、赤字寸前にある雇用保険財政について、10月にも大臣告示をもって保険料率の引き上げと失業給付資格者を切り捨てにつながる「失業者認定の厳格化」をおこなうとしています。ひきつづいて給付日額と日数の削減、教育訓練給付や高齢者継続雇用給付も削減の方向で検討中と推察されます。
私たちは、こうしたことに対して、実質賃金の低下がつづくもとでの労働者や長引く不況下にある中小企業への安易な負担増はすべきでなく、さらには、現下の厳しい雇用情勢のもとで失業者の生活をいっそう困難においこむ給付の削減はおこなうべきでないとの立場から、以下、その考えと要求を明らかにし、貴職の誠実な対応を要請するものです。
記
1.リストラ支援策から雇用重視への政策転換を
雇用保険財源の不足を招いた最大の要因が失業者の急増にあることは明らかであり、雇用保険財政の健全化は、これまでの「産業再生法」制定などにみられるリストラ支援策でなく、解雇規正法の制定、公的な雇用創出など雇用の維持・拡大にむけた政策への転換をはかるべきである。
2.保険料の引き上げ反対、国庫負担増と「賦課金」などでの対応を
今回、法改正をせず大臣告示による「弾力条項」を適用して10月から保険料を現行1.2%(労使折半)を1.4%へ0.2ポイント引き上げ、来年度さらに引き上げるとしているが、昨年(2001年4月)に0.8%から50%もの引き上げをおこなったばかりであり、さらなる引き上げには反対である。財源手当として以下の対応をとるべきである。
@ 国庫負担を3分の1に引き上げる(現行4分の1)。1959年までは3分の1であった。最悪の失業状況のもとで、3分の1国庫負担にすることは国民の支持を得られるところである。
A 「賦課金」を徴収すべきである。深刻な失業状況を引き起こした要因に企業のリストラ・大量人減らしがあることから、一定規模の人員削減をおこなう企業(例えば、雇用対策法による「再就職援助計画」の認定基準である30人削減)から既定の保険料に加えて「賦課金」を徴収すべきである。
B 雇用保険にかかわる事務経費については一般会計で処理すべきである。
C 今日の失業情勢の悪化は政府のリストラ支援策によるところが大きく、財源の枯渇にたいしては緊急特別措置として一般会計で補填すべきである。
D 現行「失業等給付」制度の活用状況を明らかにし、真に失業者の生活保障と就労にむすびつくものにすべきである。
3.給付水準の引き下げには反対である
1)給付日額の削減には反対である。雇用保険は、「労働者が失業及び雇用継続が困難と場合、必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図る」(雇用保険法第1条要旨)というものである。総務省の5月「労働力調査」によっても、完全失業率5.4%、完全失業者375万人の内、世帯主が101万人と過去最高になり、24歳以下と65歳以上を除く年齢階層で増加している。失業は失業者家計に深刻な事態をもたらしており、こうしたもとで給付日額を削減すれば、失業者の生活を二重に圧迫することになり法の目的に反する。
2)さらなる給付日数の削減をすべきでない。昨年4月1日施行の雇用保険法「改正」によって、「自己都合退職者」にたいする失業手当給付日数が最大120日間削減された。前記の「労働力調査」による失業期間が「6カ月以上」と「1年以上」が47.8%と約半数を示すように失業状態の長期化にあるもとで、これ以上の給付日数の削減はすべきでない。
3)教育訓練給付金について安易な制限はすべきでない。既に、昨年9月より高校教育までで習得できる水準の講座は、基礎的・入門的レベルのものとして除外され、趣味的・教養的な受講者の多い講座についても制限されている。本来、職業転換に必要な教育訓練機会の提供は多様にあってしかるべきで、機会の縮小・制限は安易におこなうべきでない。ただし、失業等給付事業としてより合致する方向での検討は必要である。
4)高齢者雇用継続給付について削減すべきでない。現行60歳以降賃金の25%相当額給付の削減が予想されるが、現実に中小企業の定年延長や再雇用をめぐり、60歳以降の賃金についての労使協定締結に、この給付が前提とされているところが多く存在する。これが削減されるとなれば中小企業における高齢者の雇用継続は困難になる。また、高年齢者等の雇用の安定にかかわる法律の「60歳定年」は据え置いたまま、年金支給開始年齢を引き上げた国の責任として年金支給開始年齢までの雇用継続施策を重視すべきである。
4.給付抑制のための「失業認定の厳格化」には反対である。真に求職者が就労に結びつく公的紹介業務の拡充を
今回、失業認定を厳格化するといわれているが、そもそも失業給付は、失業により喪失した所得を、一定の生活が可能化な水準まで回復することにより生存権を保障し、新たな就労の機会を得るまでの間、その労働力を維持する労働権保障の手段である。給付抑制としての「失業認定の厳格化」は、セーフティネットである公的保険制度を後退させるものとして反対である。今日の失業者増大、給付期間の長期化は政府の経済政策の失政に原因があることは明らかであり、失業認定を厳しくすることで給付の抑制をはかるとすれば、失業者に失政と恣意的な制度運用による二重の困難をおしつけることになる。さらには、認定を一定回数以上の職業紹介機関での相談・応募の実績に限定することは、職業紹介機関によらない多様な形態や自身での求職活動をおこなう受給資格者を切り捨てることになる。労働の意思や能力、失業の事実は申告によって確認されているが、それを疑うことになれば申告制度の根幹を揺るがし、信頼に裏打ちされた実効ある公共職業紹介・相談を困難なものにする。
今日、重要なのは、職業紹介・職業相談にあたり積極的な「事業所訪問」等を通じて、業種・職種、企業の実情などの情報を把握して求職者の条件にあった「適格紹介」を充実させることである。そのために職員の増員は不可欠である。
以上