日頃、行政の円滑な運営に努力されておりますことに敬意を表します。
さて私どもは外国人研修生(実習生含む)の支援活動を行っておりますが、昨年5月よりこれまでに20件の相談がありました。そのほとんどに共通するのが最低賃金違反、強制貯金・パスポートの取り上げです。研修生たちは出国前に「残業代が時給300円や600円」という契約書類にサインさせられた」と言います。日本の受け入れ機関もこのことを承知で受け入れ企業に送り込んでいました。彼らは研修のための自己負担金とは別に2000〜12000USドルもの保証金を払わされており、契約に違反した場合にはこの保証金から「罰金」を取られることになっています。契約の中には「受入れ企業以外の集まり、ストライキへの参加禁止」など労働者の権利を制限する内容もあります。
また契約には「日本企業に迷惑をかけた場合は帰国」などがあり、「強制帰国された場合には帰国費用は本人負担」ともなっています。労働組合に相談したことで「本国での契約に反したから罰金をとる」と言われ、もらえることになった残業代35万円を辞退するということもありました。
さらに中間ブローカーが介在し、利益を得ている場合もありました。ある企業は、ブローカーを通じて、「ベトナムの方から残業代は600円で良いと言ってきた」と言っていました。会社は送り出し機関(派遣局)、受け入れ機関(組合)、ブローカーにあわせて一人、月5万円以上を払っていました。それでも人手不足のなかで、受け入れを続け、そのしわ寄せは研修生・実習生への劣悪な処遇へとなっています。
受け入れ機関の認可は極めて簡単で、いったん認可されてしまえばこれを日常的に監督する行政機関はないのが実態です。各受け入れ機関の許可エリアは県、地方、全国と分かれており県をまたいで派遣すれば実態はほとんどわかりません。労働者派遣が社会問題になっていますが、それでも各県ごとに労働局に登録・届け出します。これとくらべても全く野放しの制度となっています。またいったん不正で処分されても、受け入れ機関やブローカーは、外国や国内のいわゆる「口利き」ですので、次々と役員、地域を変え、新しい組合をつくったり、「名義貸し」で事業を続けることができます。受け入れ機関の認定は全くの素通りです。
さらに、これらの不正行為を告発しにくくしているのが「帰国指導」です。入管は「不正行為」にあたると判断された場合の取扱いとして「帰国指導」を第一に掲げています。昨年の豊田技術交流事業協同組合の不正事件でも研修生に渡されたのは「帰国準備のためのビザ(4ヶ月)」でした。受け入れ組合が新たな受け入れ先を確保しなければ「帰国指導」されてしまうところでした。
不正を行った企業の「強制帰国」についても、入管は全く歯止めになりません。これを良いことに受け入れ機関や企業は不正を告発する研修生を強制帰国させてしまいます。多くの研修生は企業や組合から「文句を言ったら帰国させる」と言われています。私たちも支援を求められましたが間に合わず帰国させられたこともありました。
以上の実情から次のような改善を要請します。
@.受け入れ機関に対する指導・監督機関の一本化
受け入れ機関・受け入れ企業を指導・監督する行政機関を一本化し、すべての研修・実習活動を届け出させること。
A.不正を告発した研修生・実習生への「帰国指導」を行わないこと
不正の告発による「強制帰国」の通報があった場合には「内部告発者保護法」を適用し、出国を一時保留すること。
B.母国語による書面契約、電話受付を充実すること。
有給休暇の付与、残業代の割り増しなどの日本の労働者の権利を掲載する、研修・実習に必要なガイドブック(母国語版)を全員に渡すよう義務づけること。
研修生・実習生の通信手段はほとんどが携帯電話であり、全国共通でよいので土日、夜間の母国語での携帯電話相談を開設し、その電話番号を周知すること。
C.国内での派遣局の不正行為を取り締まること。また外務省を通じて、母国での契約に際し日本の労働法制を遵守し、不正を告発したことで処罰されることの無いようにすること。
D.寮費、水光熱費、共益費等については、他の労働者、地域相場との均衡を取るよう指導すること。
補足資料
@.コクヤン派遣局の問題
相談のなかで送り出し機関がコクヤン派遣局であるものが多く、いずれも残業代が600円、貯金・パスポート取り上げという点が共通していました。コクヤンは愛知県一宮市浅野に日本支社をおき、愛知県を中心に1500人ものベトナム人を派遣しています。コクヤンHPによると日本に大きな支社があるのはコクヤンだけです。
ある受け入れ企業の話では、コクヤンの担当者とブローカーが企業を担当し、なかには直接コクヤンに管理費を支払っていたことがありました。また、研修生に聞いたところ、600円の残業代については「出国間際にコクヤンにサインさせられた」と言っています。また帰国後は二ヶ月分の給料をコクヤンに渡すことになっていると言います。会社・研修生同時に話を聞いたときに、日本に来るための旅費を両方とも「払った」と言い、二重取りがわかりました。
コクヤンは「研修生管理と研修生の権利を守るため」と直接企業に行って研修生を管理しています。研修生は日本の企業から「帰国させるぞ」と脅されていますが、それ以上に派遣局から直接「保証金を返さない」と言われることをたいへん恐れています。
A.コクヤンの設立経過とエイライン・Gネット協同組合
コクヤン派遣局の会長TRAN氏は岐阜市のエイライン・Gネット協同組合で通訳をしていました。エイラインとは(株)エイラインディベロップメントのことで、水野進氏が社長をしています。以前から外国人研修生の受け入れ事業をやっています。水野社長がTRANに指示をしてコクヤンを設立し、設立資金もエイラインから出たと言われています。エイラインは入管に目をつけられたため、今ではいろんな組合をつくって研修生を派遣しています。岐阜市中鵜にあるエイラインの住所には岐阜県中部繊維技術統合協同組合、Gネット協同組合、岐阜繊維システム開発協同組合、岐阜ソーイングテクニカル協同組合があり、いずれも外国人研修生を受け入れています。
エイライン総務部有川健次氏とGネットの有川氏は同一人物です。Gネット代表の川出氏はレストラン経営者で実質的には水野氏の指示で運営されています。愛労連への相談が多い富山のアケボノ事業協同組合も元Gネットの浜井氏が代表になっています。かつてエイラインで受け入れを行っていたエイビック組合は役員を変え、協同組合アテインに改組して東京で登録しています。この他にもこの関係者がそれぞれ新たに受け入れ機関をつくり、表裏両方で研修制度に関係しています。
エイラインの受け入れマニュアルには残業代が金属系1年目〜3年目まで600円、繊維系300円(中国は300円、350円)、水産400円と書いてありますが、私たちの入手したコクヤンのベトナムでの契約書と一致しています。愛知や岐阜では自動車関係の下請企業が多く、残業代を600円にしている会社が多くありました。
その後水野氏はなんらかの理由でコクヤンとの取引をやめ、Fimexcoなど別の派遣局をつかっています。現在愛知県ではアケボノ事業協同組合がコクヤンから500人以上を受け入れています。コクヤンは毎年500人の研修生を日本に送り出していると言っています。愛労連はアケボノに対しコクヤンからの受け入れをやめるよう要請し、「今年4月からやめる」と聞いています。
B添付資料
・相談事例一覧
・コクヤンの残業代600円の事例、保証金は12,000USドルの事例
・コクヤン、3人部屋で家賃、水光費等の事例
・Gネットで休日分の手当未払いの事例
・エイラインのマニュアルと関係組合の所在地
・コクヤンHP
・コクヤンについての記事(foresight)
・強制帰国された研修生からの支援要請
以上