2007年7月31日

愛知地方最低賃金審議会

 会長  皆川 正 様

愛知県労働組合総連合

議長   羽根 克明

愛知県最低賃金の改正決定に関する意見


 

 愛知労働局一般公示第59号(愛知県最低賃金の改正決定に係わる関係労働者及び関係使用者の意見聴取に関する公示)にもとづき、愛知県労働組合総連合(議長 羽根克明、以下「愛労連」と記す)は、愛知県最低賃金の引き上げに関し、下記のとおり意見を述べます。

 

 

1.今年の愛知地方最低賃金の引き上げに関する審議会での議論については、国会における「最低賃金法改定案」(以下「改定法案」と記す)をめぐる議論、また政府の「成長力底上げ戦略推進円卓会議」(以下「円卓会議」と記す)での議論をふまえておこなうよう求めるものです。

 現行の最低賃金の問題が国会で議論となったとき、安倍首相は答弁で「生活水準を下回る現行最低賃金は問題である」と述べ、さきの国会で「改定法案」が上程されるに至りました。「改定案」は「生活保護水準」を下回る現行の最低賃金の問題が指摘され、「生活保護にかかわる施策との整合性に配慮する」という文言が入れられました。

 また、政府の「円卓会議」でも最低賃金の問題が、精力的に議論がなされてきました。この議論の過程で伊藤忠商事会長の丹羽宇一郎氏は「(最低賃金の)算定根拠は生計費に絞るというのが筋ではないか」「事業主の支払い能力に配慮して決定するということであると、最低生活水準以下の生活を労働者に強いることになる」などの発言をし、最低賃金の引き上げを主張しました。また厚生労働省は、この「円卓会議」においても引き上げにむけた「考え方」を示しました。結果として「改定法案」は継続審議、「円卓会議」での議論も先送りになりました。

 7月13日の今年度第1回にあたる第23回中央最低賃金審議会で、厚生労働大臣があいさつのなかで、「(「改定法案」は)継続審議となったが、事実認識は変わるものではない」「円卓会議では格差をなくすということから、従来の考え方の単なる延長線上ではなく、パートタイムや非正規問題などを考慮した考え方で働く人の賃金の底上げがおこなわれるような議論」を要請しました。また、この審議会には事務局から「平成19年度地域別最低賃金改定の目安審議に際して留意すべき考え方」について4つの点をあげています。ところが、中央最低賃金審議会使用者代表委員は「中小企業の立場で経営は十数年に及ぶ長期不況で下請価格にみるように厳しい。最賃の大幅引き上げに対応するのは困難」などと発言しました。

 

2.しかしこれほど本末転倒で、労働者・下請業者の実態を無視した議論はありません。今日の労働者の「貧困化」、中小企業の経営の厳しさは、大企業・親企業にその責任の大半はあります。

 私たち愛労連がこの間かかわってきた労働相談や労働組合の組織化のなかで、「偽装請負・労災かくし」をはじめ、数々の違法行為が発覚しました。また、「国際研修協力機構」(JITCO)の制度を利用したベトナム研修生・実習生を法令に違反して働かせていたことが明らかになりました。トヨタ車体精工に労働者を派遣していた「BMG」という派遣会社の責任者は、ブラジル人の派遣労働者を個人事業主として偽り、必要な社会・労働保険すら加入していませんでした。責任者は労働組合との団体交渉の場で「保険加入すると経営が成りたたない」ことを明言しました。

 トヨタは0002年にCCC21=(コンストラクション・オブ・コスト・コンペティブネス21)で7500億円、0305年にBT2=ブレークスルートヨタ2)で5200億円ものコスト削減をおこない、さらに現在「VI戦略(ヴァリューイノベーション)」で0608年の3年間で15%のコスト削減をすすめています。このことが下請企業の経営を直撃していることは明らかです。

 さらに、派遣法の規制緩和で「1日派遣」「スポット派遣」などとよばれる労働者が急増しています。彼らは「ネットカフェ難民」といわれ、自らの住居がもてず、ネットカフェに寝泊まりしながら、携帯メールでその日の仕事を得るというやり方で、ときには1日働いて得た賃金が時給換算すると最低賃金すら割り込むこともあるといいます。

 「景気が回復した」などといっていますが、それを実感しているのは大企業・親企業であり、多くの下請・中小零細企業は依然として「長期不況」のもとにおかれています。大企業・親企業による「コスト削減」が「雇用破壊」の最大の要因であるにもかかわらず、最低賃金を引き上げる議論になると、使用者側代表委員は「中小企業の経営が厳しい」などと主張し「支払い能力論」で引き上げを拒否することは、この間の国会や「円卓会議」での議論を反故にするものといわなければなりません。

 現在、公正取引委員会は下請企業との取引について、下請単価に経費を含むとする法改定を準備しています。また「下請二法」はかならずしも厳格に運用されているとは言えません。大企業・親企業がコンプライアンス(遵法精神)を前提とし、企業の社会的責任(CSR)を果たしていれば、今日のような事態を引き起こすことはあり得ません。

 

3.私たちは、愛知の現行最低賃金694円がいかに低いかを証明するために、今年も2月の1月間、最低賃金による「生活体験」を実施しました。40人が家計簿をつけ、可能な限り「最低賃金額=公租公課費及び住居費を06人事院勧告による18歳単身者の標準生計費を差し引いた額」内でのとりくみとしましたが、3人を除いて他の人はオーバーしました。そのうちのひとりは「風邪をひいて寝込んでしまったため、外出の機会がなく、最低賃金の枠内でできた」と感想を述べています。家族とともにくらしている人でも、普通の生活をしていれば赤字になってしまいます。単身であれば不可能な金額です(別紙添付資料参照)。

 さらに6月20日には現行の694分にちなみ、「694分(AM8:00PM7:34)のハンガーストライキをおこない、最低賃金の低さをアピールしてきました。当日あわせて、早朝・昼・夕刻と3回の宣伝行動をおこないました。昼の宣伝のとき、通行人から「がんばって下さい」との激励をいただきました。このような激励はかつてなかったことで、最低賃金引き上げをのぞむ労働者・国民の期待の大きさを実感しました。

 

日本と欧米各国の最低賃金額

国    名

月額(円:為替レート換算)

改訂年月

ベルギー

203,692

2007.1

フランス

196,408

2006.6

アイルランド

225,281

2007.1

ルクセンブルク

245,890

2006.1

オランダ

201,156

2006.7

アメリカ(現在)

105,537

1997.1

アメリカ(改訂後)

148,572

2009.1

イギリス

213,976

2006.1

日  本

116,878

2006.10

4.日本の最低賃金は、諸外国と比較しても最低水準にあります。これまで日本についで低かったのはアメリカでした。しかしアメリカは09年1月から約250円を引き上げることが法律で改定され、日本を大きく上回ることになりました。また00年から06年の間、イギリスやフランスなどOECD加盟国は2030%近い引き上げをおこなってきたのに対し、日本はわずか2.2%にとどまっています。この結果、日本の最低賃金は諸外国に大きく水をあけられています(表参照)。

 「経済のグローバル化」や「国際競争力」を口にする以上、少なくとも最低賃金を諸外国並みに引き上げることが必要ではないでしょうか。

 さらに日本の最低賃金は、地域間格差が大きく、差別的な賃金制度になっていることが大きな問題になっています。現在最高が東京の719円、沖縄・青森などの610円と109円もの差があります。こうした格差がよりやすい地域に資本を移動させ、不公正な競争を助長しているのです。こうした不公正な競争や格差をなくすために、「全国一律最低賃金制」の確立は欠くことができません。このことについは貴審議会での議論の対象とはならないものの、いま関係機関が連携してこの問題を考えていく時期にきていると思います。

5.「最低賃金を上げると失業者が増える」という議論があります。しかし、この間大幅に引き上げた諸外国で、そのことが原因で失業率が増加した事実はありません。「円卓会議」でも,むしろ逆に「(引き上げは)生産性を高める」ことにつながるなどの意見がだされているほどです。

 私たちは、中小零細企業の経営実態がきびしい状況にあることは承知しています。しかし最低賃金を引き上げることを、中小企業の経営が好転するまで引きのばすことにはなりません。最低賃金を引き上げるとともに、大企業・親企業によるコスト削減をやめ、下請け企業との公正な取引を確立し、必要な中小零細企業に対しては、減税措置や補助金制度を適用するなどの政策が必要だと考えます。政府も「円卓会議」を設置し「成長力の底上げ」を強調しています。そのためには、文字どおり最低賃金を大幅に引き上げ、個人消費をのばしてこそ「景気の真の回復」=「成長力の底上げ」が可能です。

 

 以上のように、あらゆる面からみて、最低賃金の引き上げを抑制する理由はなく、大幅引き上げにむけて決断するときだと考えます。

 貴審議会が、この間の国会や「円卓会議」での議論をふまえ、また私たちのとりくみで明らかになった現行最低賃金の低さを共通の認識にしていただき、大幅な引き上げにむけた議論を重ねて要望するものです。

以上


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