愛知労働局一般公示第56号「愛知県最低賃金の改正決定にかかわる愛知地方最低賃金審議会の意見に関する公示」が8月27日にありましたので、愛知県労働組合総連合は、以下のとおり異議の申し出をおこないます。
記
1.愛知労働局は、8月27日の審議会の答申を受け、愛知県の時間額をこれまでの714円に、中央最低賃金の目安15円に、2円を上積みして731円とすることにした。しかし、この改定は、改正最低賃金法の趣旨や私たちの要求、「格差と貧困」の解消からみれば、きわめて不十分な内容であり、遺憾である。
2.今回の中賃目安ではランクごとの格差、Aランク内での格差はこれまで以上に拡大する。少なくともランク内の格差を縮小するため、もっとも高い東京に可能なかぎり水準を引き上げるべきである。
理由
1.改正最低賃金法の趣旨を無視した「改定」であるということ
(1)今回の改定は、改定最低賃金法が7月1日に施行されてはじめての改定となった。改正最低賃金法の趣旨は、これまで以上に「生計費」を重視したものであることは周知のことである。中央最低賃金審議会の議論に先だっておこなわれた「成長力底上げ戦略推進会議」(08年6月20日)での議論は、「中小企業の生産性向上と最低賃金の中長期的な引き上げの基本方針について」の合意が成立した。ところが8月4日の中央最低賃金審議会「目安小委員会報告」は、労使の意見の隔たりが大きく「公益委員見解」となった。しかもその内容は「総合的判断」であるとして、引き上げ目安そのものを抑制し、格差を拡大させた。それ自体は問題であるが、それでも公益委員見解は「中央最低賃金審議会目安制度のあり方に関する全員協議会報告」(平成16年12月15日)等を踏まえ、「とくに地方最低賃金審議会における合理的な自主性発揮が確保できるよう整備充実に努めてきた資料を基に…審議に際し、上記資料を活用されることを希望する」とのべている。この「公益委員見解」対して、愛知地方最低賃金審議会はどのように対応したのか。専門部会での傍聴を拒否しているため、その審議過程は詳らかになっていないが、今回の答申の結果からみる限り、「自主性を発揮した」とは言いがたい。
(2)改正最低賃金法には、「地域最低賃金の原則」に、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護施策に係わる施策との整合性に配慮する」という文言が挿入された。この趣旨は、生活保護水準と最低賃金が同額であればいいということではなく、働いて得た賃金が生活保護水準を上まわることは当然というものである。同程度であれば「働こうと意欲が出てこない」というインセンティブの問題も生じる。
生活保護施策との整合性のために比較をする必要はある。しかし厚労省が示した比較データはきわめて意図的で、不正確な比較である。
第一に、県庁所在地での比較ではなく、県内人口加重平均としたこと
第二に、住宅扶助を「実績値」としたこと
第三に、勤労基礎控除を除いていること
など、恣意的な比較がなされていた。とくに住宅扶助では、名古屋市内(1級地)で35,800円を上限に、実際の家賃を扶助している。関係機関への十分なヒヤリングさえおこなわず、厚労省の提出資料をそのまま受け入れたことは、改正最低賃金法の趣旨を踏まえたものとはいいがたい。
2.わずか17円の引き上げでは「格差と貧困」の解消にはならない
(1)今日、年収200万円以下の労働者が1000万人をこえている。青年層の間では2人に1人が非正規労働者である。この最大の原因は労働法制の規制緩和にある。とりわけ労働者派遣法における日雇い派遣をはじめ、不安定な雇用形態を拡大してきたこと、そしてきわめて低い最低賃金にあることは明らかである。労働者派遣法については改正にむけた議論があるものの、最低賃金の改定は遅々としてすすんでいない。労働法制は「最低限の労働者保護を規定することが労働法制の基本」(06年11月30日、経済財政諮問会議での元柳沢厚労相の発言)とのべているように、最低賃金も最低限の保護規定である。その基準はすくなくとも、労基法が規定する「週40時間・1日8時間」の労働によって、労働者が生活できる賃金を確保されるものでなければならない。しかし、実際の最低賃金はとうてい「健康で文化的な最低限度の生活」にはほど遠い。
(2)日本の最低賃金は、諸外国との比較でもきわめて低い水準にある。これまでアメリカが主要国では最下位だったが、09年以降の改定により日本が最下位になった。日本の財界は、つねに「国際競争力」「グローバル化」などを口にするが、それならばなぜ最低賃金を少なくとも国際水準と同程度まで引き上げないのか。
(3)使用者側委員は今回の審議のなかでも、中小企業の「経営の悪化」を主張している。この間、何度も指摘しているように、中小企業の経営の苦しさは「最低賃金」にあるのではない。最大の原因は親企業・発注元企業の下請二法を無視した取引がもたらしたものである。このことは、平成20年度の「労働経済白書」も指摘している。さらに4月9日、自民党内の「雇用・生活調査会」の中小企業労働者問題プロジェクトチームが「中小企業労働者賃金改善緊急プラン」を発表している。その内容のトップに「取引適正化に向けた親事業者の責任強化」を位置づけ、「労働条件低下を防ぐための下請法の積極的運用等」を強調している。最低賃金の抑制ではなく、下請二法の厳格な遵守、中小企業への支援策の強化こそ求められているのである。
(4)中小企業に働く労働者は全体の7割を占めており、最低賃金の引き上げをはじめ、中小企業労働者の賃金を確保することは、今日の景気停滞を打ち破り、消費・内需を拡大するうえで、緊急の課題になっているのである。答申に反対した使用者側委員は、「支払い能力論」に固執せず、中長期的な視点にたって議論すべきだと考える。
もちろん、愛労連は中小企業への支援策など手立てを講じることなしに、最低賃金だけ引き上がればいいとは考えていない。愛労連は、中小企業団体とも積極的に懇談などをすすめ、減税や中小企業の振興政策、助成金等について、ともに国・自治体に求めていくものである。
3.あらためて、最低賃金の引き上げを求める
愛労連はこの間、月額150,000円・日額7500円・時給1000円以上の全国一律最低賃金制の確立と地域最低賃金の大幅な引き上げを求めてとりくみをすすめてきた。この要求ですら年収200万円を得ようとすれば2000時間働かなければならない水準である。しかし、現実的な課題としてただちに時給1000円が困難であるとすれば、この水準にむけて愛知労働局・審議会は、改正最低賃金法の趣旨をふまえ、中長期的な視点にたってどのような引き上げをしていくのかを打ちだすべきである。その立場から、愛労連はあらためて08年の地域最低賃金を、おなじAランク内の東京並みに引き上げることをかさねて要求するものである。
以上