最低賃金の改定にむけて、日夜ご尽力されていることに心から敬意を表します。
さて、08年の最低賃金改定にむけた議論がはじまりました。6月30日の中央最低賃金審議会(以下「中賃」)に先だち、成長力底上げ戦略推進円卓会議(以下「円卓会議」)は、最低賃金の引き上げの目標を「高卒初任給の最も低い部分」とし、5年をかけて引き上げるとしました。「円卓会議」の議論では「最も低い部分は(企業規模10〜99人)で755円、高卒初任給全体の平均で927円」が示されました。しかし使用者側はこの額にすら反対、「20人以下」の水準を主張し、結局、具体的な数値目標は明らかになりませんでした。
6月30日の「中賃」においても「円卓会議」での議論が紹介され、さらに「生活保護との整合性」についての説明も受けています。しかしこの説明をおこなった生活保護の担当者は、とくに住宅扶助について「形骸化した扶助基準」として「1〜2級地13,000円以内、3級地8,000円以内」とのべて、実態よりかなり低い額を表示し、実際に運用されている「特別基準」については例外であるかのように口頭で説明したと聞いています。
こうした「円卓会議」や「中賃」の議論を受けて、今後、地方最低賃金審議会での議論がおこなわれますが、私たちは貴審議会が改定の議論をおこなうにあたって、以下の点について意見をのべるものです。
記
1.「高卒初任給の最も低い部分」ではなく、最低賃金を「生活できる賃金水準」に
(1) 「円卓会議」で示された「企業規模10人〜99人」の高卒初任給は755円。この額についてすら使用者側は反対していますが、755円に引き上げたとしても、年収ベースで159万円(755円×176時間×12月)にしかならず、「ワーキングプア」の解消にはつながりません。ましてこの額を5年程度かけて引き上げることになれば、むしろ「ワーキングプア」を大量に生みだし、固定化するものであるといわざるを得ません。今日「年収200万円以下」の労働者は1000万人をこえています。こうした低賃金労働者をつくりだした原因は、労働法制、とりわけ労働者派遣事業法のあいつぐ規制緩和による「登録型・日雇い派遣労働者」がつくりだされたことと、最低賃金があまりに低いことにあります。
(2) 私たち愛労連がこの2月の1月間、最低賃金714円による「生活体験」をおこなってきました。(資料1)104人がチャレンジしましたが、そのほとんどが最低賃金の額では生活できませんでした。最低賃金の額で生活しようとすれば、食費を切り詰め、人とのつきあいの“断絶”、教養・娯楽をあきらめるなど、およそ「人間らしいくらし」にはほど遠いものとならざるを得ません。たとえ現在の全国平均687円が755円になったとしても、その生活は「非人間的なくらし」から脱却できるものではありません。
(3) 非正規雇用と低賃金によって、多くの若者たちが「将来への不安」をいだき、希望がもてない生活をしています。「労働者派遣法の抜本改正」、非正規労働者の正規雇用化にむけた施策とともに、最低賃金を「生活できる賃金」に引き上げること、当面「時給1000円以上」に引き上げることが、政府および関係機関が果たすべき役割になっているのではないでしょうか。
2.「高卒初任給」は「生活保護施策との整合性」をもりこんだ改正最賃法の趣旨と異なる
(1) 改正最低賃金法が7月1日に施行されました。改正最賃法の趣旨はいうまでもなく「生活保護施策との整合性を配慮」したもので、「生活保護水準を下回らない」ことが法改正議論のなかで明らかにされています。しかし、この間厚生労働省が発表している「最賃と生活保護水準」との比較では、きわめて恣意的なデータの取り方をしています。生活保護との比較をする場合、県庁所在地の級地、勤労控除、公租公課費を含むものでの比較をしなければ、正確な比較はできません。また労働時間の長さなどより実態に近いものでおこなうべきです。
私たちは、こうした点から愛知県内における生活保護費(1級地〜3級地)比較をしてみましたが、すべて最低賃金が生活保護水準を下回っています。(資料2)
(2) 生活保護水準は、文字どおり憲法第25条の「国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」があるという規定を具体化したものです。しかも「働けなくなった場合」でも現在の水準を保障するもので、働いて得た賃金である最低賃金がこれを下回ることは本末転倒です。長年にわたって、低い額に設定してきたことに問題があります。
3.「中小企業の経営のきびしさ」を最低賃金抑制の口実にすべきではない
(1) 6月30日の「中賃」においても、使用者側委員は「支払い能力論」を持ち出し「原材料費等の高騰など中小企業の経営はきびしい。最初から『上げろ』という審議はおかしい。中小企業の実態を考慮して審議すべき」との趣旨の発言をされています。しかし、私たちが毎年指摘しているように、中小企業の経営のきびしさの原因は、最低賃金の引き上げがもたらしたものではありません。使用者側委員は、中小企業の倒産が続いていることを理由にしていますが、最低賃金を上げなくても倒産しています。その最大の原因は大企業・親企業のコストダウンにあるのは明らかです。大企業が史上空前の利益をあげているときでも、中小下請の経営は非常にきびしいものがありました。イギリスでは99年に最低賃金制を853円で導入し、毎年平均57円程度引き上げ、07年には1308円になっています。イギリスで最低賃金の引き上げによって中小企業が大量に倒産しているのでしょうか。
(2) 中小企業の経営に関しては、自民党「雇用・生活調査会中小企業労働者問題プロジェクトチーム」が興味深い「提言」をだしています。「全従業者の7割を超える人々が中小企業で働くとともに、賃金総額の6割強は中小企業労働者に支払われており、消費と内需を拡大していく上で中小企業労働者の賃金を確保することは不可欠」であるとしています。そしてそのために、@取引適正化に向けた親事業者の責任強化、A官公需の中小企業・地元企業への発注促進、B建設業における下請労働者のためのとりくみの抜本的強化、C相談体制・内容の充実強化についてふれています。このなかには直接最低賃金の引き上げについて触れていませんが、(下請企業がまともな賃金を払えず、人件費単価の低い外国人労働者を違法に雇用したりする状況をつくりだすような)親企業の無謀な下請単価切り下げを批判しています。
下請への不当な単価切り下げをやめさせ、さらに中小企業への支援策を講じることによって、私たちは最低賃金の引き上げは可能であると考えます。
(3) 国際的にみて日本の最低賃金はあまりに低すぎます。財界は、労働者の賃金引き上げにかかわってかならず主張するのが「グローバル化」です。「賃金の引き上げは国際競争力の低下をもたらす」というものです。先進国・欧米諸国では時給で1000円以上、月額で20万円以上が常識になっています。(資料3)「国際競争力」を主張するのなら、少なくとも先進国とは同水準の最低賃金に引き上げるべきではないでしょうか。
4.景気の底支えとなる最低賃金の引き上げ
(1) 私たちは最低賃金の引き上げを「時給1000円以上に」という要求を基本にとりくみをすすめ、また生活保護との比較でも200円以上の引き上げが必要であると考えています。確かにこれらの額を一気に今年中に引き上げることは、他の施策なしでは困難かもしれません。しかし、いかにして「あるべき水準」に最低賃金を引き上げるかということです。
私たちは、以下の点から計画的な引き上げが必要であると考えています。
@ 中小企業においても、すでに多くの労働者の賃金が最低賃金より高い。
A 最低賃金引き上げによって賃金が上がる労働者は消費性向が高く、景気への貢献度が高い。
B 低賃金労働者の消費は、地域の中小企業関連の産業にプラスになる。
C 低賃金労働者の勤労意欲と会社への定着が高まる。
以上の点からも、私たちは最低賃金の引き上げを求めるものです。
(2) 私たち愛労連は、5月中旬に県内の54の業界団体への訪問活動をおこなってきました。なかには、業界そのものの存続ができなくなっているところもありました。しかし懇談ができたところでは「一部大企業が儲けすぎだ」と指摘する声も聞かれました。また原材料費の高騰の問題が経営を圧迫していることが共通してだされました。原油高騰が中小企業の経営を圧迫している問題について、政府は効果的な手を打てていません。緊急の対策とともに、中小企業の経営を安定させるために、中長期的な支援策を講じることが重要になっています。
(3) 私たちは貴審議会が、以上の状況を考慮のうえ、最低賃金引き上げにむけて議論をおこなうことを切に願うとともに、下記の点について実現されるようつよく求めるものです。
@ 愛知の最低賃金を時給1000円以上に引き上げること。
A 審議会での議論は専門委員会等もふくめすべて公開とすること。
B 審議会の場で、パート労働者、生活体験者による意見陳述を実現すること。
以上