2008年6月2日

厚生労働大臣 舛添 要一 殿

審査請求人         田中 道代
審査請求人         早川 義弘
審査請求人         宮垣加代子
審査請求人         國村 忠文
審査請求人         西尾美沙子
審査請求人 愛知県労働組合総連合
議長   羽根 克明

愛知地方最低賃金審議会委員任命処分に関する審査請求書


 

T 審査請求人
1.田中 道代・愛知県労働組合総連合 

2.早川 義弘・JMIU愛知地方本部

3.宮垣加代子・生協労連・めいきん生協労働組合

4.國村 忠文・全労連・全国一般労働組合愛知地方本部

5.西尾美沙子・愛知県医療労働組合連合会

6.愛知県労働組合総連合・議長 羽根 克明

 

U 審査請求に係わる処分

 愛知労働局長が2008年3月16日付でおこなった愛知地方最低賃金審議会委員の候補者の推薦に関する公示にもとづいて行った処分。

 

V 審査請求に係わる処分があったことを知った日

 2008年4月30日。

 

W 処分庁の教示

 なし。

 

X 審査請求の趣旨

 愛知労働局長が2008年3月16日に行った愛知地方最低賃金審議会委員任命処分のうち労働者代表委員の任命処分を取り消し、あらためて任命をやり直すこと。

 

Y 審査請求の経過と理由

1.違法任命の経過

 愛知労働局長は、2008年3月16日付愛知労働局一般公示をもって、「愛知地方最低賃金審議会委員の候補者の推薦に関する公示」をおこなった。
 標記の審査請求人のうち、番号1〜5記載の各労働組合と愛知県労働組合総連合は、同公示指定の期間内に愛知労働局長に対して番号1〜5記載の者を同審議会の労働者代表委員の候補者として推薦した。候補者は地域の中小零細企業の労働者やパートタイム労働者、そして医療介護職場に働く低賃金労働者など最低賃金の影響を強く受けている労働者を組織する労働組合の所属であり、また労働相談活動を通して地域の低賃金労働の実情に精通している。推薦団体は候補について、その活動実績と見識、力量、人柄からみて愛知地方最低賃金審議会労働者側委員にとして最適の人物と確信し、推薦したものである。
 同年4月28日付で愛知労働局長は、上記審査請求人組合の推薦にかかる候補者を排除し、連合愛知加盟組合推薦にかかる5名の候補者を労働者代表として任命する処分を行った(以下「本件任命処分」という)。
 本件任命処分は、以下にのべるとおり、違法、不当なものであるから取り消しを求める。

 

2.取り消しの理由

1)公募制度の趣旨をふみにじっている

 最低賃金審議会令は、第3条第1項において「厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、中央最低賃金審議会又は地方最低賃金審議会の労働者を代表する委員又は使用者を代表する委員を任命しようとするときは、関係労働組合又は関係使用者団体に対し、相当の期間を定めて候補者の推薦を求めなければならない」こととしている。その目的は委員の人選が行政の恣意によることなく、公正・妥当に行われるようにすることにあり、単に形ばかり推薦を募っておけばよいというものではない。

 加えて、旧労働省労働基準局長が発した基発545号(1961年6月15日付)では、労使代表委員の組織系統別の構成、特に労働者代表委員の構成(割り振り)の如何は、「委員任命に関しもっとも紛議を生じやすい問題」であり、混乱を招くことのないよう、関係団体等との意向打診や折衝を行うなどの配慮を求め、具体的な労働者代表委員の割り振りについては、管内における組織人員比率などの諸事情を十分勘案すべき」とされている。

 これらの基準からすれば、愛知県内における主要な労働団体である愛労連の推薦候補も、地方最低賃金審議会労働者代表委員に任命されてしかるべきということになる。

 ところが、本件任命処分においては既述のとおり、連合加盟組合の推薦にかかる候補のみが選任され、全労連の推薦にかかる候補者は、いずれも排除された。しかもこうした偏向任命が本件に限らず、毎年の任命処分において、繰り返し行われている。こうなると、最低賃金審議会労働者代表委員の任命に関しては、処分庁が一貫して愛労連推薦候補者を排除するという、不公平で不当かつ明確な意志をもっているのではないか、との疑念を抱かざるをえない。

 上記の法令の趣旨や通達の基準から逸脱し、特定の労働組合に偏った任命を行うことは露骨な差別行政であり、「労働者一般の利益」という公益を損なう許されざる行為である。

 ちなみに、2006年4月1日からスタートした労働審判制度の審判員の任命は最高裁判所の人事案件であるが、そこでは貴省のまとめた「労働組合基礎調査報告」による組織人員比を基準のひとつとし、それによって審判員の任命数を割り出す作業を行い、愛労連からも労働審判員が任命されている。労働審判員にもとめられる「公正さ」を任命行為の公正さによって担保しようとしているのである。地方最低賃金審議会の人事案件においても、こうしたことは実施可能であるにもかかわらず、それをなさなかった本任命処分は不当であり、取り消すべきである。

 

2)客観的かつ公正な基準が示されない

 委員定数を上回る候補が推薦されていることから、候補者全員が必ず委員に任命されるわけではないことは審査請求人も承知している。しかし、毎年、適任と信じて推薦する人物が任命されないという事態に直面しているため、どのような人物が、委員にふさわしいのか、任命基準について説明を求めている。ところが、それに対する労働局の回答は、「総合的に判断をした」というにつき、納得しうる任命基準の説明をしたことはない。審査請求人の期待した結果をくつがえすだけの判断をするに足る理由や基準が、示されてしかるべきではないか。それを明らかにしないまま、任命処分をするのであれば、任命権限を恣意的に行使し、行政にあってはならない差別的任命を行っているとの批判を免れることはできない。公正さを証明できない不当な任命処分は、取り消されるべきである。

 

3)特定の労働組合の利益を擁護している

 厚生労働省は委員推薦の権限は「特定の労働組合の利益のために認められたものではなく、労働者一般の利益すなわち公益を保護するために認められたもの」として、「公正な任命」を求める愛労連の主張を退けてきた。しかしながら、特定の系統の労働組合を排除し、他の特定の労働組合の推薦する人物のみを任命し、その利益を擁護してきたのは、任命権者の方である。審議運営の中に、労働者一般の声を反映させるという公益を具体化させるためには、特定系統の労働組合に委員を独占させるのではなく、意見の違いのある多様な団体から推薦された委員をもって審議会を構成するべきである。したがって、今回の任命処分は取り消されるべきである。

 

4)ILO結社の自由委員会第328次報告における勧告の遵守を

 最低賃金審議会委員の任命に関しては、これまではILOへの提訴等はなされていない。しかし、同種の事例について、ILOは日本政府に対し偏向任命をやめるよう勧告を出している。2002年6月のILO理事会における、「結社の自由委員会第328次報告」は、「労働組合がその労働者代表義務を果たすことを妨げる反労働組合差別に関する申立」に対する「勧告」として、「日本政府に対し、労働委員会及びその他の審議会の公正な構成に対するすべての労働者の信頼を回復するために、すべての代表的な労働組合組織に対して公正かつ平等な取り扱いを与える必要に関する結社の自由原則に基づく適切な措置を取るよう」求め、「政府に対しこの件に関する進展について引き続き情報提供するよう」要請している。

 また、前述した結論部分では「特定の一組織に特別待遇を与えることによって、労働者が所属しようとする組織に関する労働者の選択に直接あるいは間接に影響を及ぼすことがある。加えて、意識的にこうしたやり方で行動する政府は、本条約(87号)に規定する『権利を制限もしくはその合法的な行使を妨げるどのような介入も公権力は控えるものとする』という、第87号条約に定められた原則の違反となる。それはまた、間接的には、国内法は条約に規定された保障を損ない、もしくは損なうように適用されないものとするという原則の侵害である」と、厳しく日本政府の対応を批判している。

 さらに2003年4月の「結社の自由委員会」は、「日本政府が、委員会の勧告について知らされた後……既存の不均衡を是正する機会があったにもかかわらず」是正しなかったことを「遺憾を持って注目」し、「日本政府が是正措置をとることを希望」している。これ以上、偏向任命を続けて、国際的な常識を蹂躙し続けないためにも、今回の任命処分は取り消されるべきである。

 

Z まとめ

 今期の愛知地方最低賃金審議会委員の任命処分のうち労働者代表委員の任命処分は、差別の存在をいっそう明らかにするとともに、その底流が政府・愛知労働局の差別意志によって行われていることは、公益保護を叫びながらなんら客観的な基準も示さず、恣意的な任命に終始してきたことからも明らかである。よって、憲法第14条、第28条に違反するだけでなく、ILO第87号(結社の自由条約)に違反していることは、2002年の結社の自由委員会第328次報告によっても明らかである。

 すみやかに、今期の愛知地方最低賃金審議会の労働者代表委員の任命処分を取り消し、改めて任命を行うことは当然のことである。本異議申立に対する採決の前に、口頭による意見陳述の場を設けていただくことを要請しつつ、審査請求の趣旨記載のとおりの採決を求める。

以 上


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