2009年8月25日

愛知労働局長
中沖 剛 殿

愛知県労働組合総連合
議 長  榑松 佐一

愛知県最低賃金の改定に関する異議の申出書


 

 愛知労働局一般公示第71号「愛知県最低賃金の改正決定に係わる愛知地方最低賃金審議会の意見に関する公示」が8月11日にありましたので、愛知県労働組合総連合は、以下のとおり異議の申し出をおこないます。

 

 

1.8月11日、愛知地方最低賃金審議会は、愛知県の地域最低賃金の時間額をこれまでの731円に、1円を上積みして732円とするとの答申をおこなった。この「答申」は、昨年までの最低賃金をめぐる議論の流れと、改正最低賃金法の趣旨をふみはずし、「経済・景気の動向」を主張する使用者側委員の主張に屈服したものと言わざるを得ない。

 

2.今回の「答申」は、中央最低賃金審議会(以下「中賃」)の目安を無批判に受け入れるとともに、「格差と貧困」の解消、内需拡大という点をまったく無視したもので、きわめて遺憾である。したがって09年の地域最低賃金は、少なくとも東京並みに引き上げることを求めるものである。

 

理由

 

1.改正最低賃金法の趣旨を無視した「答申」であるということ

(1)今回の改定は、改定最低賃金法が08年7月1日に施行されて2度目の改定となった。改正最低賃金法の趣旨は、「生計費」を重視したものであることは昨年も強調したところである。昨年は「成長力底上げ戦略推進会議」(08年6月20日)での議論などをふまえ、中央最低賃金審議会「目安小委員会報告」は、労使の隔たりが大きいなかでも「公益委員見解」として「15円引き上げ」の目安を答申した(愛知はこの目安に+2円上積みし17円の引き上げをおこなった)。

 ところが今年は、中賃も含め、愛知の審議会も「引き上げ」にむけたまともな議論をおこなった形跡はまったく感じられない。「中賃」目安は、使用者側委員の強い据え置き§_に屈服し「生活保護との乖離」部分の改定にとどまったこと、またそれ対し、愛知の審議会が「総合的な検討」をどこまでおこなったのか、わずか「1円」を上積みしただけの「732円」を答申したことは、昨年までの議論を無視したものである。

 

(2)愛労連は、昨年の目安の際に用いられた「生活保護水準との比較」のデータは、まったく実態にあわない、まやかしの比較であることを批判してきた。しかし、厚労省は今年も同様のデータをだした。その結果、「生活保護との乖離」のみの引き上げにとどまったのである。

 最低賃金の水準は「生活保護水準」をクリアしていればいいというものではない。最低賃金は、文字どおり生活保障の最低限を規定するもので、労働者がその額で生活できる水準でなければならないのは当然である。

 中賃による今年の「35県は引き上げなし」という目安は、最低賃金を経済動向や景気のうごきの枠内での「改定」にとどめるものである。これは何よりも今日の経済危機・不況を「克服する」という観点からの議論を無視したものである。たしかに、雇用状況は悪化し、労働者全体の賃金水準も低下している。しかし最低賃金は、正規労働者の賃金が低下したからといって、引き上げを抑制しなければならない水準にはない。

 全国のいくつかの労働組合が「生計費実態調査」をおこなっているが、それによると埼玉でも東北・岩手でも25歳単身者で月額23万円程度・時給1300円程度が必要との結果がだされた。実際の最低賃金はとうてい「健康で文化的な最低限度の生活」にはほど遠い。現行最低賃金こそ実際の最低生計費と大きな乖離≠ェあり、このことを問題にしなければならないのである。

 

2.「格差と貧困」をさらに広げ、景気回復を遅らせる

(1)今日、年収200万円以下の労働者が1000万人をこえている。青年層の間では2人に1人が非正規労働者である。この最大の原因は労働法制の規制緩和にある。とりわけ労働者派遣法の日雇い派遣や製造業派遣への拡大は、不安定雇用労働者を拡大してきた。彼らはフルに働いてもさまざまな名目で諸費用が賃金から控除され、貯蓄すらできない。低賃金労働者を生みだす背景に、きわめて低い最低賃金があることは明らかである。労働法制は「最低限の労働者保護を規定することが労働法制の基本」(06年11月30日、経済財政諮問会議での柳沢元厚労相の発言)とのべているように、最低賃金も最低限の保護規定である。その基準はすくなくとも、労基法が規定する「週40時間・1日8時間」の労働によって、労働者が生活できる賃金を確保されるものでなければならない。

 

(2)日本の最低賃金は、諸外国との比較でもきわめて低い水準にある。労働政策研究・研修機構による調査をみるとOECD諸国のなかでも低いことが指摘されている(平成21年版「労働経済白書」)。日本の財界は、つねに「国際競争力」「グローバル化」などを口にするが、それならばなぜ最低賃金を少なくとも国際水準と同程度まで引き上げないのか。

 

(3)使用者側委員は、最低賃金の引き上げは中小企業の「経営を悪化させる」と主張する。この間、何度も指摘しているように、中小企業の経営の苦しさは「最低賃金」にあるのではない。平成21年度の「労働経済白書」は、「最低賃金の引き上げは、短時間労働者の下位層の賃金に大きく影響する一方、一般の労働者の賃金には大きな影響はあたえていないものとみられる」とのべ、最低賃金の引き上げが「中小企業の経営を圧迫する」というのは、事実でないことを指摘している。さらに「同白書」は中小企業の経営のきびしさの最大の原因は、親企業・発注元企業のうちとくに「大企業が利益を内部留保という形でため込んでいる」ことにふれ、大企業による下請企業、労働者への利益の還元が不十分であることを指摘している。

 

(4)中小企業に働く労働者は全体の7割を占めており、最低賃金の引き上げをはじめ、中小企業労働者の賃金を確保することは、今日の景気停滞を打ち破り、消費・内需を拡大するうえで、緊急の課題になっている。答申に反対した使用者側委員は、「支払い能力論」に固執せず、中長期的な視点にたって議論すべきだと考える。
 もちろん、愛労連は中小企業への支援策など手立てを講じることなしに、最低賃金だけ引き上がればいいとは考えていない。愛労連は、中小企業団体とも積極的に懇談などをすすめ、減税や中小企業の振興政策、助成金等について、ともに国・自治体に求めていくものである。

 

3.あらためて、最低賃金の引き上げを求める

 愛労連はこの間、月額160,000円・日額7500円・時給1000円以上の全国一律最低賃金制の確立と地域最低賃金の大幅な引き上げを求めてとりくみをすすめてきた。この要求ですら年収200万円を得ようとすれば2000時間働かなければならない水準である。しかし、現実的な課題としてただちに時給1000円が困難であるとすれば、この水準にむけて愛知労働局・審議会は、改正最低賃金法の趣旨をふまえ、中長期的な視点にたってどのような引き上げをしていくのかを打ちだすべきである。その立場から、愛労連はあらためて09年の地域最低賃金を、東京並みに引き上げることをかさねて要求するものである。

 

以上


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