昨秋以降、「派遣切り」「期間工切り」などにより数万人規模の非正規雇用労働者が仕事と住まいを奪われ、帰る家がない多くの非正規雇用労働者がホームレス状態に追い込まれてきました。
解雇、雇い止めなどにより職を失う非正規雇用労働者は、2009年6月末までに21万人を超え、愛知は全国の都道府県で最多の3万5000人を超えると言われています。その多数を占めるのが、愛知県に本拠を置く自動車関連企業、電気関連企業などの製造業大企業の労働者であり、今後も、三河地方で、解雇、雇い止めなどに遭う労働者が予想され、また、すでに解雇、雇い止めに遭った労働者の雇用保険の給付日数が終了し、生活していくことができなくなる事態が予想されます。
私たちは、この間、3月21〜22日岡崎で「反貧困・駆け込み相談会」を、4月26日知立で「知立団地一日派遣村」を、5月31日豊橋で「豊橋一日派遣村相談会」を開催し、それぞれ128人、60人、109人の相談を受け、生活保護申請、雇用保険(求職者給付)受給、労働局への是正申告、アパート紹介などの対応をしました。
この結果を踏まえて、以下の要請をします。
お忙しいところ恐縮ですが、7月22日までに文書でご回答下さい。
1.いずれの相談会でも、相談者の手持金が0円、10円、20円といったように少ないために、新規に生活保護を申請した人が申請日に緊急貸付を受けなければならず、さらに、緊急貸付を受けた後も開始決定までの間に貸付金が底をつき、保護開始決定日までもたないとの窮状が訴えられました。
生活保護法では、資産、能力その他あらゆるものを最低限度の生活の維持のために活用することが要件とされていますが、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではないとされ(生活保護法4条3項)、また、保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならないとされており(同法25条1項)、迅速な職権保護が求められています。そして、「保護は、要保護者・・・個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとする」とされており(同法9条)、これらの規定によれば、所持金がない者には柔軟に対応し、迅速な保護決定を行うこと、迅速な保護決定を行うことができない場合、保護開始決定までの生活費を支給することが求められているところです。そして、地方自治体は、住民の生活を守るため、地方自治法施行令第161条第1項第10号により「生活扶助費の経費」を用意する責務があります。
2.相談会では、アパート協同組合と連携したり、民間業者の協力を得たりして、住まいを失った生活保護申請者が入居に至ったケースがあります。安定した家賃収入があるならアパートを提供していいというところや生活困窮者の状況をよく理解した上で協力を申し出るところがありました。
憲法で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障・・・の向上及び増進に努めなければならない」とされ(憲法25条2項)、生活保護法でも、国家責任による最低限度の生活の保障が法の目的とされています(生活保護法1条)。この点、厚生労働省社会・援護局保護課長から発せられている「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」(2009年3月18日、社援保発第0318001号)でも、「住居の確保を支援するため、各自治体においては、例えば、不動産関係団体と連携し、・・・アパート等をあっせんする不動産業者の情報を収集するなど、必要に応じて、住居に関する情報を提供できるよう、その仕組みづくりに努められたい」と確認されているように、本来、住居の準備は行政が行うべきです。入居希望者・賃貸人・不動産業者をうまく結びつけ、入居希望者の住む場所をより多く確保する努力が行政には求められるところです。
そればかりか、行政が紹介したところから、施設運営費(備品・修理)、共益費(消耗品)、水道光熱費、管理費名目で、食費、交通費等は別で、月に合計32,500円の管理費を取られているケース、朝から晩まで就労講習を受講するよう事実上強制されているケースが見受けられました。このようなところを紹介することは行政の責任を果たしたことになりません。
3.生活保護法では、「保護は、・・・要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする」(生活保護法8条1項)、「保護は、・・・個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとする」(生活保護法9条)と規定され、保護は「その者の金銭・・・で満たすことのできない不足分を補う」こと、「実際の必要の相違を考慮」して「有効且つ適切に行う」ことが要請されています。
にもかかわらず、生活保護の申請に当たって、派遣会社から寮費、布団代、備品代、昼食代、管理費、前貸、社会保険料等の名目で「諸費用」を差し引かれ、実際の手取収入が3か月連続0円〜300円となり生活に困窮しているにもかかわらず、名目賃金が収入と認定されているケースがあります。
4.すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有し(憲法25条)、生活保護法による保護を無差別平等に受けることができ(生活保護法2条)、保護は申請に基づいて開始するものとするとされており(生活保護法7条)、生活保護の申請をすることは国民の権利です。また、「保護の実施期間は、要保護者から求めがあったときは、要保護者の自立を助長するために、要保護者からの相談に応じ、必要な助言をする」ものとされています(生活保護法27条の2)。そして、保護を利用している人に対する指導、指示は「被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な」ものでなければならず、「被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない」とされ、「被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない」とされています(生活保護法27条)。
にもかかわらず、申請に当たって、申請者の意思確認を理由に申請が妨害されているケース、相談者・申請者の立場に立った説明が行われていないケース、福祉事務所が外国人に対して「相談に応じ、必要な助言をする」のに必要な通訳がおらず、本人との間でやりとりができず、手続に時間がかかったケース、保護利用中の人に対して現実や本人に即した指導、指示が行われていないケースが見られました。
5.生活保護法は、すべての国民に対し、その自立を助長することを目的としており(生活保護法1条)、「保護は、・・・個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行うものとする」(生活保護法9条)、「急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない」(生活保護法4条3項)と規定しています。
しかしながら、公共交通機関が十分でなく求職活動、就労に自動車が必要であるにもかかわらず、福祉事務所が自動車の所有を柔軟に認めず、それが支障となり保護申請に至ることができないケースが見られました。
6.生活保護法では、「生活扶助は、被保護者の居宅において行うものとする」とされ(生活保護法30条1項)、「被保護者の意思に反して、入所又は養護を強制することができるものと解釈してはならない」とされています(同条2項)。前記「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」でも、「住居が確保されていないことを理由として保護申請を却下することはできない」とされています。
にもかかわらず、アパートが決まらないことで保護申請却下とされているケースが見られました。
7.生活に困窮している人に対して、福祉事務所が生活保護で対応しようとせず、生活福祉資金貸付や教育ローンなどの貸付を強く勧めるケースがあります。また、生活保護を利用していた日系外国人夫婦に対し、帰国支援金を申請しなければ生活保護を廃止する可能性がある旨の文書指示や指導が行われているケースがあります。
しかしながら、「貸付」は「給付」とは異なり、後に返済しなければならないものですので、「利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」(生活保護法4条1項)のいずれにも当たりません。このような対応は生活に困窮している人の自立の助長に資するものではなく生活保護法に反します(生活保護法27条の2)。また、帰国支援事業で支給される給付金は使途の定まったものであり、生活に向けて利用されるものではなく、「利用し得る資産、能力その他あらゆるもの」に当たりません。
8.そこで、私たちは次のとおり要請します。
(要請1)
生活保護の申請をしてから開始決定されるまでの期間、当面の生活費のない申請者には、申請日に生活費(生活保護費支給日までの最低生活費と手持金の差額)を支給すること。生活費支給の資金を予め用意しておくこと。
(要請2)
住居のない申請者に対しては、生活保護の申請をしてから開始決定まで、健康で文化的な最低限度の生活を営むことができる住居を用意すること。
(要請3)
緊急宿泊施設を紹介する場合、宿泊施設の運営主体から不当に控除されないよう、責任を持って紹介すること。
(要請4)
生活保護の申請者が派遣会社から様々な名目で「諸費用」を差し引かれている場合、手取り賃金を収入と認定すること。
(要請5)
申請者の意思確認を理由に申請を妨害しないこと。
(要請6)
申請者が自動車を所有している場合にも、公共交通機関の事情を十分踏まえ、求職や今後の就労の可能性に備えて、自立助長の見地から柔軟に対応すること。
(要請7)
相談者、申請者の立場に立った説明を行うこと。生活保護申請者に対し生活状況を聴取し、挙証書類の提出を求める場合、聴取・提出の理由・根拠を申請者が理解、納得できるよう、懇切、丁寧に説明すること。保護を利用している者に指導、指示する場合、現実や本人に即した指導、指示を行うこと。
(要請8)
アパートが決まらないことを理由に申請を却下しないこと。
(要請9)
生活保護法の規定に反して、他の制度を理由に、生活保護申請を認めないあるいは妨害するようなことをしないこと。外国人に対して、生活保護の申請より帰国支援金の申請を優先させ、あるいは帰国支援金の申請をしないことを理由に保護を廃止しないこと。
(要請10)
行政の責任において福祉事務所で通訳を確保すること。失業した外国人に対して住民税、国民健康保険料などの減免制度について母国語での案内を配付すること。
以上