【見解】

愛知県経営者協会から愛知労働局長への

「労働時間管理に関する行政指導等に対する要望」について


2004年5月12日
愛知県労働組合総連合
第20回幹事会

   

 

 愛知県経営者協会は3月、労働局長に対し「要望」をだした。その趣旨は@労働時間の把握方法は労使にゆだねろ、A管理監督者の範囲拡大、 B36協定の特別条項は個別企業の労使自治に、C労働時間管理の規制緩和である。
これは一昨年来厚生労働省が強めている労働時間管理の徹底にたいする巻き返しに他ならず、これが愛知で行われているところに大きな特徴がある。

 

「残業代不払いの罪」に無反省、労基法違反を一掃せよ

 トヨタをはじめとする愛知の大企業各社はこの2年間に相次いで不払い残業で労働基準監督署の是正勧告を受けている。残業代不払いは懲役刑もある重大犯罪であり、大企業を多く抱える愛知県経営者協会がこのような「要望」を出すこと自体「無反省」のそしりを免れない。

 また県下の労災死亡事故は「全国ワースト1」となっているが、その背景には新日鐵名古屋工場の爆発事故やトヨタでの過労死判決など大企業でのリストラと過酷な労働実態がある。経済産業省は大企業での相次ぐ重大事故の人的要因として「製造業の就業者数が1992年をピークに減少を続けており、製造現場での人員も減少。この結果、現場での保安管理が問題になっている」とした。人員不足がサービス残業の温床であることはいうまでもない。

 労働基準法違反の企業をなくすことが経営者協会の社会的責任である。

 

「労使の自治」以前の問題だ

 「要望」は「時間管理は労使自治」と繰り返すが、不払い残業は労使自治以前の問題だ。労基法違反を見過ごしてきた労使の社会的責任こそ問われるべきである。また相次ぐサービス残業摘発は労使の自治が機能していないからおきたのではないか。実際に昨年9月勧告を受けた中電で、労働組合は「組合として経営のチェックができず反省している」(本部書記長)と述べている。トヨタでは昨年2度目の勧告が行われたが労働組合からの告発はなかった。他の企業でも告発は企業内の労働組合からではなく、愛労連や家族からの指摘によるものであり「自治」は機能していない。

 そればかりか今年3月に発表された東邦ガスの不払い残業代精算では、2年間分の支払い義務があるのに労働組合の意見により半年分しか調査も支払いも行われなかったという。労働組合が労働者の請求権を放棄している。

 

「労働時間1800時間」は国際公約

 トヨタはじめ大企業各社は年間労働時間1800時間の早期達成を掲げてきた。ところが愛知の製造業は1800時間はおろか2000時間をこえているのが現状である。経済界はしきりに「グローバル化」「国際競争力強化」をいうがそのためには労働時間も国際的でなければならない。EUはじめ各国には「サービス残業」の用語すらない。トヨタもフランス工場では週35時間労働と最低5週間のバカンスのもとで車を生産している。1800時間の達成は国際的に対等な競争に欠かせない。

 

厚生労働省へのまきかえし

 昨年12月開催された愛知過重労働防止大会で労働局が36協定の調査結果を発表したが、回答した1499事業所の過半数で年間550時間以上の特別条項協定を締結しており、これが長時間・過重労働の温床となっていることが指摘された。今回の「要望」はこの指摘に対する「根拠のない反論」である。 

 愛知経営者協会にはトヨタをはじめ日本経済界の主要な企業が役員を占めており、今回の要望は宛先こそ愛知労働局長であるが、厚生労働省への反撃・巻き返しにほかならない。

 愛労連はこの2月11日「ふざけるなトヨタ、大企業は社会的責任を果たせ」のスローガンで第25回トヨタ総行動を提起し、全国から1300人がトヨタ本社を包囲した。今回の経営者協会の「要望」は愛知にとどまらず全国の労働者にとっても見過ごすことのできない重大問題である。

以上

 

【解説】しんぶん赤旗(2004.04.24)より

 

■サービス残業 長時間労働 是正指導を批判

愛知経営者協会 行政に要請書

 

 トヨタ自動車や中部電力などでつくる愛知県経営者協会が、違法なサービス(不払い)残業や長時間労働の是正指導を強化している労働行政を批判し、不払い・長時間労働を事実上野放しにするよう愛知労働局(厚生労働省の出先機関)に要請書を提出していたことがわかりました。

 違法行為への労働基準監督署の指導に、これまで曲がりなりにも従う姿勢を示してきたトヨタなどの企業が、この姿勢を根本から転換する動きとして重大です。

 要望書は三月二十六日付で、「最近の労働行政は時間管理に重きを置くばかりで、労働時間制度の多様化、弾力化の流れに逆行している」と批判しています。

 要望の内容は第一に、タイムカード等による労働時間の把握方法は、ホワイトカラーには適さないから労使に委ねるべきだとし、第二に、労働時間の法的規制が除外されている「管理・監督者」(深夜労働は残業代支払い対象)の範囲を拡大するべきだと主張しています。

 第三に、労使による時間外労働協定(三六協定)の特別条項の適用期間を「一年の半分以下」と行政が制限したことは「経営上影響が大きい」と批判。特別条項は、青天井の時間外労働を可能にしてきたものです。法の画一的な規制はせず労使に委ねるべきだといいます。

 第四に、事務・技術系労働者を労働時間の法的規制から除外する制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)を早期導入すべきだと強調しています。

 同協会は日本経団連の地方組織の一つで、現会長は日本ガイシ会長の柴田昌治氏(日本経団連副会長・同経営労働政策委員長)が務めています。ホワイトカラー・エグゼンプション 事務・技術系労働者を労働時間の法的規制から除外する制度。

 使用者が、事務・技術系労働者を何時間働かせても法的な規制をうけず、残業や休日労働分の割増賃金を支払わずにすむというもの。長時間労働にいっそう拍車がかかることになります。

 使用者に労働時間管理の責任がなくなるので、万一過労死しても労働者の自己責任とされかねません。現在、管理・監督者は深夜労働を除き労働時間の法的規制から除外されています。アメリカでは広範な労働者が法的規制から除外されており、財界はこれを日本に導入することを狙っています。

 

■解説/違法状態の「合法化」図る

 労働者にはこれまで以上の長時間労働を強いるが、企業が残業代の支払いや健康破壊・過労死の責任を負うのは嫌だから、行政は手を引け。法律を変えろ=\―愛知県経営者協会の要望書はこんな大企業の欲望をむき出しにしています。

 協会が批判する「労働時間管理の指導強化」が行われたのはなぜでしょうか。

 一九九〇年代後半に大企業のリストラ・人減らしが激化するなかで、違法な不払い残業がいっそう横行し、異常な長時間労働による健康破壊や過労死が広がりました。

 職場労働者や過労死遺族の粘り強い告発やたたかい、日本共産党の国会などでの追及によって、厚生労働省は二〇〇一年四月、労働時間の把握は使用者の責任≠ニ明確に示した通達を出し、本格的な指導に乗りだしたのです。

 通達は使用者にたいし、労働者に自己申告させる残業代の請求方法を制限し、タイムカードなど客観的な記録で労働時間を確認するよう求めました。自己申告制が不払い残業の温床となってきたためです。

 その結果、〇一年四月以降、昨年十二月までに支払われた不払い残業代は二百五十億円を超えます。それでも「氷山の一角にすぎない」(監督官)のが現状です。

 要望書は、こうした違法行為を反省するどころか、これを取り締まるのは問題だから合法化しろ≠ニいうものです。その最たるものがホワイトカラー・エグゼンプションの導入です。いわゆるホワイトカラー労働者を労働時間の法的な規制の外において不払い残業を合法化し、過労死させても企業責任を問われにくくする狙いといえます。

 ホワイトカラー・エグゼンプションの導入は、日本経団連(会長・奥田碩トヨタ自動車会長)が政府につよく要求してきたものです。重大なことに、厚生労働省の「仕事と生活の調和に関する検討会議」ですでに議論が始まっており、六月にはとりまとめがされる予定です。審議会をへて、来年の通常国会に法案を提出する見通しといわれています。

 法の枠内でさえ、命を削る働き方を強いられているのに、法の外となったらどんな事態になるのか―。財界のたくらみを許さず、不払い・長時間残業を一掃する労働時間規制のさらなる強化こそ、求められています。

 
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